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腹腔鏡手術


 腹腔鏡はお腹の中を見るテレビカメラのようなものだとお考えいただければ良いでしょう。腹腔鏡を行う時は、麻酔をかけて、胃カメラよりずっと細い腹腔鏡でお腹の中を見ます。昔から百聞は一見にしかずといいますが、この腹腔鏡検査を行うとお腹の中の様子が手に取るようにわかります。

 子宮や卵管、卵巣などに妊娠を妨げる異常がないかどうかを直接肉眼で見ることができるため、不妊症の原因の診断にとても役に立つ検査で、不妊症でお悩みの方にこの検査を行うと、他の検査ではわからなかった異常が見つかる可能性が60〜70%以上あります。特に初期の子宮内膜症や軽い癒着などは腹腔鏡以外に見つける方法がありません。

 もし、お腹の中に異常があった時は、腹腔鏡で悪いところを見ながら手術し、治してしまうのが腹腔鏡手術です。腹腔鏡手術は外科でも胆嚢の手術などに広く用いられていますが、不妊症の手術も腹腔鏡で行うことができます。腹腔鏡手術にはお腹を開けて行う開腹手術に比べてさまざまなメリットがあります。

 まず、不妊症の治療に際して最も重要なことなのですが、開腹手術を行うと、開腹する行為そのもののために新しい癒着を作ってしまうことがあります。ですから、子宮や卵巣、卵管の状態をよくするために行った手術が、結果的にこれらの大切な場所に癒着を引き起こしてしまい、かえって妊娠しにくくなるという事態が起こることがありました。腹腔鏡手術の場合は、最初から開腹せずに、小さな傷からお腹の中に入れた鉗子で手術を行ってしまいますので、傷口に新しい癒着を作る心配がありません。

 腹腔鏡手術のもう一つのメリットとして、患者さんに対する痛みなどの負担の軽さがあげられます。不妊症の手術では、お腹の中の手術したところの痛みよりも、お腹の表面の切ったところの痛みの方がずっと大きい場合がほとんどです。開腹手術はお腹を10cm前後切りますから、手術後の痛みはかなりのものになり、少なくとも手術後2〜3日はベッドの上での生活になります。腹腔鏡手術の場合は、お腹につく傷は腹腔鏡自体やいろいろな鉗子を出し入れするのに必要な5mmから1cmのものが3〜4箇所だけですみます。一つ一つの傷が小さいので痛みも少なく、手術当日、あるいは少なくとも翌日には歩けるようになります。入院期間も腹腔鏡手術の方が断然短くなります。

 腹腔鏡手術を行うには熟練が必要ですが、大谷徹郎医師は1993年に産婦人科腹腔鏡手術の開祖とも言える、ドイツ、キール大学ゼム教授のもとに留学して研修し、以降も研鑽を重ね、腹腔鏡に熟達しています。 

腹腔鏡手術による治療
●卵管の閉塞
 卵管が詰まっているため妊娠できない場合の不妊症の治療法は2種類あります。一つは体外受精です。そしてもう一つの方法が腹腔鏡手術です。
 卵管の閉塞は、卵管のお腹の中への出口周辺で最もよく起こります。こうした場合、卵管の中に液がたまって、卵管は細長い風船のようにふくれています。これを腹腔鏡で見ながらもともとの卵管の出口に当たる部分を切開します。ただ切開しただけではまた癒着してしまう可能性もありますので、切開したところは少し縫いつけたり、レーザーや電気メスで凝固させたりして癒着しないようにします。
 この手術の利点としては、一度うまく行くと妊娠は1回ではなく、一度赤ちゃんを生んだ後、何もしなくても次の妊娠のできる可能性が高いことがあります。
 卵管が詰まっていると診断された時は、腹腔鏡手術を受けるか、体外受精をするかについて、不妊症の専門医とよく相談しましょう。


●腹腔内の癒着
 以前虫垂炎やその他の炎症がお腹の中で起こったことがあると、子宮や卵管、卵巣や腸が癒着していることがあります。お腹の中が癒着していると、ちゃんと排卵されても卵子は卵管の中に入っていくことができませんから妊娠できません。こうした場合の治療法にも体外受精と腹腔鏡手術の2種類があります。
 腹腔鏡手術を行う時は、癒着している場所を腹腔鏡で見ながら、鉗子やレーザー、電気メスなどで剥離していきます。癒着の剥離は、卵管や卵巣がお腹の中で自由に動くことができるようになるまで行います。
 癒着を剥離した後は、子宮から卵管に向かって色素の入った液を注入し、卵管がちゃんと通っているかどうかを調べます。卵管が詰まっていると色素の入った液はお腹の中に出てきませんから、卵管の閉塞の手術も一緒に行う必要があります。
 お腹の中の癒着を剥離する手術は、不妊症を治すという効果の他、癒着による慢性の痛みを取り除くことができる利点もあります。特に腸が癒着している時は、痛みが強い場合が多いので、慢性の腹痛がある時は、一度腹腔鏡検査を受けられることをお勧めします。


●子宮内膜症
 子宮内膜症は、本来子宮の内側にあるはずの子宮内膜が、お腹の中など子宮の内側以外の場所、例えば卵巣や腹膜にあるために起こる病気です。毎月月経の度に子宮内膜から出血がありますが、子宮内膜症の場合は出血した血液が出ていく場所がありませんから、その場所にたまることになります。出血がたまると体はその血液を取り除こうとして炎症を起こしますから、受精しにくくなったり、癒着が起こったりします。また、たまった血液の量が多くなると嚢腫を作ってしまいます。
 不妊症の方は、そうでない方に比べて子宮内膜症の頻度が10倍ぐらい高く、子宮内膜症が不妊症の何らかの原因になっているのではないかと考えられています。
 腹腔鏡手術を行うと、初期の小さな子宮内膜症なら電気メスやレーザーで焼き取ってしまうことができます。嚢腫を作ったり癒着を引き起こしたりしている場合でも、腹腔鏡手術で嚢腫を取り出したり、癒着を剥離することができます。


●子宮筋腫
 子宮筋腫も腹腔鏡手術で筋腫だけを取り出すことができます。子宮筋腫があると月経痛が強かったり、月経の量が多くなったり等の症状の他、不妊症になることがあります。子宮筋腫があると、子宮の内側の膜が圧迫されて変形し、受精卵が着床できなくなってしまうからです。
 こうした場合には、手術を受けて子宮筋腫を取り除き、子宮をもとの形に戻してやる必要があります。しかし、大きな筋腫であることがわかっている場合には、腹腔鏡で筋腫を取り除いても、開腹しないと取れた筋腫がお腹の外に出せませんから、最初から開腹手術を行います。比較的小さな筋腫なら腹腔鏡で手術し、取った筋腫を小さく分割して腹腔鏡の穴からお腹の外に取り出します。


●卵巣嚢腫
 卵巣嚢腫が直接の原因で不妊症になることは少ないのですが、不妊症の検査を受けるとたまたま良性の卵巣嚢腫が見つかることはよくあります。小さいものはしばらく様子を見てもよいのですが、直径5cm 以上にもなる嚢腫はやはり手術して摘出してやる必要があります。
 この卵巣嚢腫の手術も腹腔鏡で行うことができます。卵巣嚢腫は内側に液体がたまっているので、まずこの液体を腹腔鏡で見ながら吸引して抜き取ります。こうすると嚢腫はしぼみますから、そこから嚢腫の壁だけを正常な卵巣から剥離して摘出します。



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